歯科医師による個人開設の手続きについて
個人開設は医療法人での開設と比べると、必要な期間は少なく、手続きが比較的少ないです。
しかし、個人開設では、事前相談から工事を経て、診療開始にかかる期間は、少し余裕をもっても4ヶ月ほどで、やはり時間はかかります。
手続きの流れ
下記の表が手続きの流れになります。
(表)
このような流れで手続きを進めていきます。
この手続きを、2つの行政機関をまたいで行う必要があります。
※事前相談
必ず工事をする前に、図面(各室の用途、寸法・面積等を記入したもの)をご持参の上、保健医療担当へご相談する必要があります。修正を受け図面の許可が下りた後、工事をします。
また、その際に歯科診療所の名称もご確認ください。使えない名称もあります。
手続きの流れ
歯科診療所開設届(保健所)
↓
保健医療機関指定申請(地方厚生局)
↓
(場合によっては特殊な指定申請、施設基準等の手続き)
以上のような矢印の順番で手続きを行います。
弊所が基本的に扱うのは上記の地方厚生局に対して行う手続きまでです。
しかし場合によっては、施設基準の届出、生活保護法指定等医療機関申請や労災保険指定申請の手続きも請け負います。
手続きの詳細
【開設許可申請、開設届、立ち入り検査について】
診療所として開設するために、保健所では歯科診療所開設届を提出して手続きを行います。
開設後10日以内に提出する必要があります。
開設許可申請書を提出する際に必要になる添付書類
・土地及び建物の登記事項証明書(土地又は建物を賃借する場合は、賃貸借契約書の写しも添付すること。ただし、ビルの一室を賃借する場合は、土地については不要。)
・敷地の平面図
・敷地周囲の見取図
・建物の平面図(各室の用途を明示した、縮尺100分の1以上のもの)
・エックス線診療室放射線防護図(※エックス線を使用する場合)
・案内図
歯科診療所開設届の添付書類の例
・歯科医師免許証
・臨床研修終了登録証
・履歴書
・案内図
・平面図
・賃貸借契約書等があり
※X線装置を使う場合は、開設届と共にX線装置の届出を提出します。
各地方の保健所によって変わりますが、歯科診療所開設届を出す前か出した後、現地に職員が立入検査に来ます。
立入検査とは、設備、医薬品・文書の管理体制、危機管理など、適正な医療を行う場として適正かどうかを直接職員が出向いて確認する検査です。
【保険医療機関指定申請】
保険診療を行うためには、診療所として開設した医療機関が所轄の地方厚生局から保険医療機関としての指定を受ける必要があります。
厚生局での保険医療機関の指定申請の手続きで必要となる書類の例
・保険医療機関指定申請書
・保健所で返された開設届の写し
・履歴書
・歯科医師免許証
・臨床研修終了登録書
・駅から建物までの案内図
・平面図
・診療所の看板や外観などの写真
・賃貸借契約書
厚生局での審査は保健所と比べて厳しく、手続きの際に提出書類を確認と共にいくつか確認の質問をされます。
質問の例
・歯科医師会に入っているか、
・院外処方か院内処方か、もし院外処方なら敷地内に薬局がないか
・近くの調剤薬局の場所や、診療所が入っている建物の入り口や、その建物内の他のテナントは何か、なども聞かれ、駅から建物までの案内図、平面図、診療所の看板や外観などの写真などを見せるよう求められる場合もあります。
その後、指定申請書が受理されると、保険医療機関・保管薬局指定通知書が翌月上旬に医療機関・薬局宛に郵送されます。保険医療機関コードは後日電話確認も可能です。
【施設基準等の届出】
その後に必要に応じて特殊な指定申請や施設基準等の届出をします。
施設基準とは、医療法で定める医療機関および医師等の基準の他に、健康保険法等の規定に基づき厚生労働大臣が定めた、保険診療の一部について、医療機関の機能や設備、診療体制、安全面やサービス面等を評価するための基準になります。
歯科の場合に必要となる、特殊な指定申請、施設基準等の代表的な参考例が下記になります。
■施設基準(クラウン・ブリッジ維持管理料、歯科麻酔管理料など)
■保険外併用療養費(金属床による総義歯の提供の実施など)
■酸素の購入価格に関する届出
あくまでこれは一例です。
実際は沢山の項目があり、その内容は以下のように多岐にわたります。
・人員配置に関連する事項(歯科医師、歯科衛生士の人数や所定の講習を受けた人員の数など)
・医療機関の実績に関連する事項(患者数や治療例など)
・設備に関連する事項(滅菌や衛生に関する器具機材、切削器具の数など)
・組織に関連する事項(管理体制や院内周知の状況など)
開設する診療所の環境に応じて対応するのが望ましいです。
参考に厚生労働省が発表している歯科の施設基準の名称一覧表をご覧ください。
厚生労働省が発表している歯科の施設基準の名称一覧表
↓ ↓ ↓ ↓
ichiran-shika.pdf (mhlw.go.jp)
※令和二年四月一日から新たに創設された施設基準
歯科麻酔管理料
(1) 常勤の麻酔に従事する歯科医師が配置されていること。
(2) 麻酔管理を行うにつき十分な体制が整備されていること。
睡眠時歯科筋電図検査
(1)当該療養を行うにつき、十分な経験を有する歯科医師が1名以上配置されていること。
(2)当該保険医療機関内に歯科用筋電計を備えていること。
顎関節人工関節全置換術
(1)歯科麻酔に係る専門の知識及び2年以上の経験を有し、当該療養に習熟した医師又は歯科医師の指導の下に、主要な麻酔手技を
自ら実施する者として全身麻酔を200症例以上及び静脈内鎮静法を50症例以上経験している常勤の麻酔に従事する歯科医師が1名
以上配置されていること。
(2)常勤の麻酔に従事する歯科医師により、麻酔の安全管理体制が確保されていること。
ご依頼いただく際にご提出頂きたい書類
医療法人の診療所をご依頼いただく際に弊所にご提出いただきたい書類の例は、
下記よりご確認ください。
→診療所開設をご依頼いただく際にご提出いただきたい書類の例?
歯科診療所の個人開設における特に重要な注意点
開設前
【歯科診療所の名称】
診療所の名称は広告の一環としてその使用が制限されています。
その理由として、医療に関する広告は患者の治療する際に選択等に影響する情報であるからです。広告可能とされた事項を除いては、原則として広告が禁じられています。
※以下の文章からは、歯科診療所の名称として使って良いものを、「広告可能」という言葉で置き換えています。
● 歯科診療所の名称として広告可能な範囲について。
まず前提として、広告可能な診療科目の中には単独で診療科目として広告可能ものと、他の診療科目と組み合わせることによって広告可能なものがあります。
歯科医業では、単独で診療科目として可能なのは「歯科」です。
他の診療科目と組み合わせることによって広告可能となるものは
・患者の年齢を示す名称
・矯正、口腔外科など特定の領域を表す用語
の2つであり、「歯科」と組み合わせることによって、診療科名として広告することが可能になります。
※不合理な組み合わせや2つの中の同じ区分に属する事項や異なる区分に属する事項同士は複数組み合わせることが出来ません
以上が歯科診療所の名称として広告可能な範囲です。
● 広告可能な名称の中でも禁じられている名称について
診療所開設にあたり、広告可能とされている中でも使ってはいけない文字や名称の例
① 実態に反する虚偽の名称
② 優位性、優秀性を示すような誇大な文字
③ 法令に根拠のない名称
④ 病院と紛らわしい名称 等
① 実態に反する虚偽の名称について
実態に反する名称とは、例えば田中という医師が開設し、診療する診療所に「鈴木医院」という名称を付す、開設する歯科診療所では皮膚科ではないのにも関わらず、「~皮膚科」と付すことです。
② 優位性、優秀性を示すような誇大な文字について
例えば、最優秀○○クリニック、最強○○診療所などです。その他にも最高、理想的、日本一、NO.1等のような他のクリニックと比べ優位性、優秀性を示すようなものを名称として付すことは認められていません。
③ 歯科診療所の名称として認められていないものについて
法令に根拠のない名称については、歯科診療所の名称として広告することは認められていません。
・歯科に関係し認められていない名称の例
インプラント科、審美歯科 等
上記は診療科名と組み合わせた場合であっても、その広告は認められません。
④病院紛らわしい名称について
○○病院診療所のように病院なのか診療所なのか紛らわしい名称も認められていません。
このように広告可能な名称の中にも、広告として使用が禁止されている文字や名称があります。
上記はあくまで例であり、この他にも広告が禁止されている文字や名称はあります。
以下のリンクが詳しく記載されている厚生労働省のページです。
→医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針
上記のリンクからアクセスし、新規診療所の名称を考える際にご参考ください。
その上で診療所の名称として決定する場合は、必ず事前相談として保健所に電話をし、確認をお願いいたします。
開設後
【院内掲示義務】
診療所内の入り口や受付など、患者のみやすい場所に次に掲げる事項を掲示する必要があります。
・ 管理者の氏名
・ 診療に従事する歯科医師の氏名
・ 歯科医師の診療の診療日及び診療時間
例
○○デンタルクリニック
管理者名_________
診療所日時及び診療に従事する歯科医師名
10:00~13:00 14:00~19:00
月曜、火曜 歯科 担当医______ 歯科 担当医______
木曜 金曜 歯科 担当医______ 歯科 担当医______
土曜 歯科 担当医______ 歯科 担当医______
※休診 水曜、日曜、祝日
【医療機関としての安全対策】
医療安全の確保に関する事項について、歯科診療所にも、医療安全の方策を講じる事が義務づけられています。
医療に係る安全管理のための基本的考え方・方策について、従業者へ周知徹底し、意識の向上を図ることが目的とされています。
【医療機能情報提供制度】
医療機関の管理者は、患者が医療機関の適切な選択が出来るように、医療機関に関する情報を都道府県知事に報告すると共に、その情報を医療機関内で閲覧できるようにすることが義務づけられています。
【医薬品、医療品についての管理体制】
医薬品は麻薬や冷所保存品など、薬事法に基づいて医薬品の保管規制に従い、適切な保管方法で管理する必要があります。
医療機器等:清潔な状態に保ち、保守管理を十分にする必要があります。
【危機管理体制】
クリニック内には、スプリンクラーか消火器を設置が義務付けられています。消化器の設置数はクリニックの広さや構造によって変わります。ご確認ください。
【健康管理体制】
職員の定期健康診断実施など、適切な健康管理体制が確立されているか
等の項目に関して判定されることになります。
【必要文書の管理】
カルテ、診療所開設届、医療従事者の本人確認書類のコピー、職員の健康診断書、職員の職員研修記録書類、医療に関わる安全管理や院内感染対策の指針に関する文書、
医薬品の安全な使用法に関する文書、X線装置などの各種装置の備付届、各種検査記録(X線装置の定期測定記録など)、処方箋の控え 等
重要な書類は保管しておかなければなりません。
以上のように、重要な注意点を簡潔に並べましたが、この中には保健所の職員による立入検査としてもチェックされる項目もあります。十分に対策をしておくことが必要です。
まとめ
以上が歯科診療所の開設において、手続きの流れ、必要書類、注意点となります。
個人で歯科診療所を開設するだけでも、二つの行政機関をまたぐ必要があり、手続きは少々大変で時間もかかります。
開設する際は余裕を持った早めの準備をお勧めします。